あなたは、「自分のことが、自分でいちばんわからない」と感じたことはないでしょうか。
不思議なものです。
一日中、誰よりも長く一緒にいるのは、自分自身のはず。
それなのに、「なぜ自分はあんな反応をしたのか」「どうしてこの人にだけイライラするのか」が、まるでわからない。
他人のことなら、案外わかるのに。
自分のことだけ、霧がかかったように見えない。
そう感じているなら、それはあなただけではありません。
私のもとを訪れる方の多くが、同じことを口にします。
「自分が、わからないんです」と。
私は催眠術師・ヒプノセラピストとして、これまで3000件以上の催眠を行ってきました。
その経験から、はっきりと言えることがあります。
催眠という技術は、「自分が見える」状態を作り出すことができる。
なぜそれが可能なのか。
今日は、その仕組みを丁寧にお話ししていきます。
「自分が見えない」のには理由がある
まず、なぜ自分のことが見えないのか。
ここから考えていきましょう。
理由は、決してあなたの能力が低いからではありません。
これは、人間の心の構造そのものに原因があります。
私たちの心には、「防衛機制」という働きがあります。
難しい言葉ですが、要するに「自分を守るための仕組み」です。
たとえば、思い出したくない辛い記憶。
認めたくない自分の弱さ。
受け入れがたい本音。
こういったものを、心は自動的に隠してしまいます。
見えないところに、そっとしまい込むのです。
これは、あなたを守るための優しい仕組みです。
ですが、同時に、これが「自分が見えない」原因にもなっています。
つまり、自分が見えないのは、あなたの心が、見えないように工夫しているからなのです。
顕在意識という「フィルター」
もう一つ、大きな理由があります。
それが、顕在意識というフィルターの存在です。
普段のあなたは、顕在意識で世界を見ています。
論理的に考え、常識で判断し、「こうあるべき」という基準で物事を測る。
この働きは、社会で生きていくために、とても大切なものです。
ですが、このフィルターは、本音を通しません。
たとえば、あなたの心の奥が「本当はこの仕事をやめたい」と叫んでいたとします。
ですが、顕在意識はこう言います。
「いや、生活があるんだから、そんなこと考えてはいけない」。
こうして、本音はフィルターに引っかかり、表に出てこられなくなる。
あなた自身でさえ、その本音に気づけなくなるのです。
考えてみてください。
窓ガラスが汚れていると、外の景色がよく見えませんよね。
顕在意識というフィルターも、同じです。
「こうあるべき」という汚れが厚くなるほど、本当の自分が見えなくなっていくのです。
催眠はフィルターを一時的に下げる
では、催眠は何をするのか。
催眠は、この顕在意識というフィルターを、一時的に下げる技術です。
誤解のないようにお伝えしますが、フィルターを「壊す」のではありません。
「少しだけ脇によける」のです。
フィルターが脇によけられると、その奥にあった本音や記憶が、自然と表に出てこられるようになります。
私はよく、こんなたとえを使います。
普段の心は、にぎやかな会議室のようなものです。
顕在意識という声の大きな人が、ずっとしゃべり続けている。
深層意識の小さな声は、その大声にかき消されて、誰にも聞こえません。
催眠は、その声の大きな人に、少しだけ静かにしてもらう技術です。
会議室が静まると、それまで聞こえなかった、小さな、でも本当に大切な声が、ようやく聞こえてくる。
それが、催眠で「自分が見える」ということの正体です。
「見える」と「変わる」はつながっている
ここで、とても大切なことをお伝えします。
自分が「見える」と、人は「変われる」のです。
なぜでしょうか。
それは、問題の多くが、「見えていないこと」から生まれているからです。
たとえば、原因のわからないイライラ。
理由のわからない不安。
なぜか繰り返してしまう失敗。
これらは、根っこにあるものが見えていないから、対処のしようがない。
やみくもに対処しても、また同じことが起きてしまいます。
ですが、根っこが見えた瞬間、状況は一変します。
「ああ、こういうことだったのか」とわかると、心は自然とほどけていく。
見えるだけで、半分は解決したようなものなのです。
ですから、催眠の目的は、何かを「植え付ける」ことではありません。
すでにあなたの中にあるものを、「見えるようにする」こと。
それが本質なのです。
30代の主婦・田中さんのセッション
具体的なお話をしましょう。
30代の主婦・田中さん(仮名)は、「子どもにきつく当たってしまう自分が嫌だ」という悩みを抱えていました。
頭ではわかっている。
子どもには優しくしたい。
それなのに、ある場面になると、どうしても感情が抑えられなくなる。
「私は母親失格だ」。
田中さんは、ご自分をそう責めていました。
その気持ち、痛いほどわかります。
ですが、私は思いました。
これは「性格」の問題ではなく、「見えていない何か」の問題ではないか、と。
催眠状態に入っていただき、私は問いました。
「お子さんのどんな様子を見たとき、いちばん感情が動きますか」。
田中さんの深層意識が答えました。
「子どもが、わがままを言って、泣きわめいているとき」。
さらに私は問いを重ねました。
「その光景を見たとき、あなたの中で何が起きていますか」。
すると、思いがけない記憶が浮かんできました。
田中さん自身が子どもの頃、わがままを言うことを一切許されなかったのです。
泣けば叱られ、欲しいものを口にすれば責められた。
「わがままは、悪いこと」。
その思い込みが、深く刻まれていました。
だから、自分の子どもがわがままを言うと、深層意識が激しく反応していたのです。
「それは許されないことだ」と。
子どもを叱っていたようで、田中さんは、無意識に、過去の自分を叱っていたのです。
この構造が「見えた」とき、田中さんは、はっとした表情になりました。
「私は、子どもに怒っていたんじゃなかった」。
それからの田中さんは、変わっていきました。
子どものわがままを見ても、以前ほど感情が爆発しなくなった。
なぜなら、その反応の正体が「見えた」からです。
見えてしまえば、もう振り回されなくなるのです。
あなた自身でできる「自分を見る」練習
催眠を受けなくても、自分を見るための練習はできます。
一つ、紹介しましょう。
「感情が大きく動いた瞬間」を観察する練習です。
1日の終わりに、ノートを開いてください。
そして、その日、感情が大きく動いた場面を一つ、思い出します。
強くイライラした、悲しくなった、なぜか涙が出た。
どんな感情でもかまいません。
その場面について、次の3つを書き出してください。
- 何が起きたか(事実だけを、客観的に)
- どんな感情になったか(その時の正直な気持ち)
- なぜそう感じたと思うか(思いつく限り、深く)
特に大切なのが、3つめです。
「なぜ」を、一度で終わらせないでください。
「それは、なぜ?」「では、それはなぜ?」と、3回は掘り下げてみてください。
掘り下げていくと、思いがけない本音や、昔の記憶につながることがあります。
それが、あなたが「自分を見た」瞬間です。
これを2週間も続けると、自分の心の動き方のパターンが、少しずつ見えてきます。
ぜひ、今日から始めてみてください。
最初のうちは、「なぜ」の答えが思いつかないかもしれません。
それでもかまいません。
「わからない」と書くだけでも、立派なワークです。
大切なのは、自分の心に問いかける習慣を持つことです。
この習慣が身につくと、感情に振り回される前に、一歩引いて自分を眺められるようになります。
「あ、今、自分はこのパターンに入っているな」と気づけるようになる。
気づけるだけで、感情の波は、ずいぶん小さくなっていきます。
これは、催眠を受けなくても、あなた一人で育てていける力なのです。
自分が見えると、人生はやさしくなる
最後に、お伝えしたいことがあります。
自分が見えるようになると、人生は、ずっとやさしくなります。
なぜなら、見えない自分に振り回されることが、減っていくからです。
「なぜか苦しい」が、「ああ、こういう理由で苦しいんだ」に変わる。
その違いは、とても大きい。
私が3000件以上の催眠を行ってきて、確信していること。
それは、人は誰しも、自分の中に答えを持っているということです。
ただ、それが見えていないだけ。
催眠は、その答えに光を当てる技術にすぎません。
あなたの中にも、必ず答えがあります。
今は見えていなくても、それは確かにそこにあります。
ですから、どうか焦らないでください。
一歩ずつ、自分を見ていけばいい。
見えた分だけ、あなたの心は軽くなり、人生はやさしくなっていきます。
その旅を、私はいつでも応援しています。
